マインドフルネス―心、身体、自然に意識を向けていく―
先日、電車内のヴィジョン広告を見ていたとき、『マインドフルネス』について説明するアニメーションが映し出されていました。
書店に行っても、心理学コーナーではないところで、『マインドフルネス』というタイトルの本を目にすることもあり、社会的な関心の高まりを感じます。
『マインドフルネス』とは、「いま現在の瞬間に生じている経験に気づき、それをありのままに受け入れている状態やそのための方法のこと(松下,2017)」です。
元々は仏教の考え(ヴィパッサナー瞑想法など)に由来しますが、現在よく紹介されている方法はどんな人でも実践しやすいように体系化されたものと言えます。
臨床心理学の世界では、第三世代の認知行動療法の1つとされていて、気持ちの落ち込みや不安感など、さまざまな心の状態に対して実践されています。
『マインドフルネス』を用いたカウンセリングでは、呼吸や身体(五感)で感じられる感覚に意識を向ける方法を身につけます。
そして、気持ちを落ち込ませる否定的な考えや、ぐるぐると巡って不安を強くする考えが浮かんでも、それをただそのまま置いておけるようにすることを目指します。
例えば、呼吸をすることに意識を向けてみましょう。
ゆっくりと息を吸うときは、「空気のにおい」や「空気が触れている感じ」、「肺が膨らんでいく感じ」などが感じられ、ゆっくりと息を吐くときには、「空気の出ていく音」や「肺がからっぽになっていく感じ」、「苦しくなっていく感じ」など、さまざまな感じられるでしょう。これ以外にも自分の中でよく感じられる感覚があるのではないかと思います。
このように、今行っていることで感じられる感覚に意識を向けて、心の中で「実況中継(木下,2017)」し、自分を客観的に把握していくことを繰り返していきます。
ただ、人によっては意識を向けようとするものから他のものに意識がそれてしまったり、考えごとが頭に浮かんできたりすることがあるかもしれません。
そのようなときには、意識が向いていないなということを確認して、もう一度、身体の感覚に意識を向け直していきます。
その体験を重ねながら、否定的な考えはそのままに、「いま現在の瞬間」にいる自分を捉えていく力を身につけていきます。
これをカウンセリングの中でカウンセラーとともに練習し、自宅などカウンセリングの場以外でも練習していただくことで変化が実感されていきます。
ストレス軽減や集中力を高めていくスキルのように、さまざまなところで取り入れられている『マインドフルネス』ですが、自分や自分を取り巻いているものに注目していくものであることから、「いま現在」の自分自身を見つめていく機会になるようにも思われます。
普段は意識して見つめないものにそっと意識を向けてみることの意味は大きいのかもしれません。
※本記事は2017年発行『心理臨床の広場⑱第9巻第2号』【松下弓月:マインドフルネスとは何か?】【木下全雄:瞑想――僧侶の観点から】をもとに作成しています。
文責:伊藤(カウンセラー)