認知行動療法
「認知行動療法」について(文責 カウンセラー 伊藤)“認知行動療法”という言葉を書店やテレビで目にしたことがあるかと思います。これは、“行動療法”と “認知療法”という心理療法理論の中で用いられている技法や考え方の中から、問題や症状に最も良いと考えられるものを選択して用いて行う心理的援助の総称のことです。心は目に見えませんが、認知行動療法に基づいた治療は、その効果が科学的に実証されており、臨床心理学の世界で大きく注目されています。また、治療の根拠があることから、カウンセリング自体に馴染みのない方にも受け入れられやすいのではないかと感じます。
認知行動療法は、①『「1人の人」と「周りの環境(状況・出来事・他者)」は相互に関係づいている』、②『1人の人の中の、「感情」-「身体」-「行動」-「認知」は相互に関係づいている』という2つの基本モデルから治療を考えていきます。どういうことかと言うと、例えば、「行動」が変われば、「感情」、「身体」、「認知」が変わるというように、どれか1つに変化が起これば、全体が変わっていくという考え方です。この前提が明確にされているために、認知行動療法は実証的な治療として機能していると言えるのでしょう。
では、認知行動療法が具体的にどのようなものであるかを、「行動療法」と「認知療法」がそれぞれどのようなものであるかを考えながら見ていきたいと思います。
★「行動療法」とは、行動と結果の結びつきが、その行動を引き起こす頻度を左右するなどの“学習理論”に基づいた行動変容法のことを言います。例えば、「飛行機が恐いけど、乗れるようになりたい」人がいるとします。行動療法の技法を用いると、
①「恐い」と思う場面をいくつかイメージして、それぞれを順位づけする。
②リラックスした状態を作るために、身体の緊張を和らげる仕方を身につける。
③身体をリラックスさせながら、一番順位の低い場面に接する。
④「恐い」と思うことが弱くなってきたら、二番目に低い順位の場面に、身体をリラックスさせながら接する。
⑤最終的に、身体をリラックスさせながら飛行機に乗れるようになる。
となります。これは「系統的脱感作法」という技法で、この他にも様々な技法があります。
★「認知療法」とは、ある出来事や物事に対する捉え方や考え方としての“認知”に働きかけていく介入理論のことを言います。ある人が、「『良い―悪い』、『白か黒か』をはっきりさせたいと思ってしまう」とします。このような瞬時に浮かんでくる考え方の癖を“自動思考”と言います。この自動思考に気づき、認知の仕方を再構成していくことを認知療法では目指していきます。
このような「行動療法」の技法と「認知療法」の技法とを織り交ぜていくことで行う心理的介入を認知行動療法と呼んでいます。基本モデルに照らして言えば、行動療法の視点から「行動」に焦点を当てたり、認知療法の視点から「認知」に焦点を当てたりして、効果的に治療を進めていくものと言えるでしょう。
ただ、「乗れない」を「乗れる」に変えていくというように、日常生活の中で起こる特定の問題に焦点を当てることが多いことから、直接的に解決に繋がっていく課題を宿題として持ち帰って、ご自宅や職場、学校など、いつも生活している場所で実践していくことが不可欠となります。そのため、どの技法を用いるかということ以上に、何とかして変えたいというモチベーションが大切になっていくと言えるでしょう。
ここまで、認知行動療法とはどのようなものかについて簡単にご説明をしてきました。
ただ、「変わる」ということは、ポジティブなものであっても、今の自分とは少し変わった自分になっていくことであって、そこにはたくさんのエネルギーが必要になるのではないかと思います(例えば、社交的になりたいと思えば、いつもより人と積極的に関わることを意識すると思いますが、その意識の裏には、いつもと違うことをする分、気疲れがあったり、上手くいくだろうかという不安が隠れているように)。そのため、カウンセリングの中では、いらっしゃった方の変化を大事にしながらも、その変化に至っていくまでの中身も大切なものとして扱っていきたいと考えています。
2020年03月17日 18:21